①運送業の法的特徴について
運送業(運輸業)とは、いわゆる物流サービスを行う業種です。
多種多様な物流サービスが日々生まれる中、現代の生活に欠かせない業種の一つであり、荷主(顧客)、運送事業者、倉庫事業者など多くの業者が関与する点が業界の特徴です。
運送業の法的特徴としては、まず、実際に運送に携わる事業者、いわゆるトラック運転手の長時間労働・未払い賃金問題が深刻化しており、労働者とのトラブル(労務トラブル)が、他の業界と比べても多いという点が挙げられます。
その背景には、運転手の慢性的な人手不足、採用難があります。
例えば、2022年の運送業の有効求人倍率は、2.01であり、全職種(1.01)の倍近くとなっています(厚生労働省「一般職業紹介状況について」より)。
このような人手不足から、トラック業界では長時間労働が慢性的になっているという問題点を抱える業界であると言えます。
また、人手不足を補うために、外部業者への業務委託や、派遣労働による人材確保に頼らざるを得なくなることにも繋がります。
多様な雇用形態が生まれると、労務管理が複雑になり、労務トラブルが多くなるのです。
また、運送業では、荷物の積込、運搬自体に時間がかかるだけでなく、積込までの待ち時間が長期間に及ぶ場合があります。
そのため、トラック運転手の拘束時間が長いことから未払い残業代が発生しやすい状況にあるといえるのです。
未払いの残業代は、過去分にまでさかのぼって請求することができるため、運送業者にとっては大きな痛手となってしまい、企業の存亡に関わる場合もあります。
そこで、運送業者にとっては、適切な労働環境となるよう整備し、このような労務トラブルを予防することが重要であるといえます。
また、労務トラブルが起こってしまった後には、適切な法的対処を行うことが、損害を最小限にとどめるために重要であるといえます。
他にも、運送業の法的特徴としては、交通事故の発生リスクが高いこと、積荷の紛失など輸送中保管中の紛争リスクがあることがあります。
それでは、運送業者はどういった法律に注意して、業務を行えば良いのでしょうか。
以下、企業法務に強い弁護士が、運送業者が注意を配るべき法務分野、運送業において生じやすい法的トラブルについて解説を担当します。
②運送業者が注意を配るべき法務分野
(1)労働関連法令
複雑・多様な雇用形態がある運送業界において、運送業者が注意を配るべき法務分野として、第一に労働関連法令が挙げられます。
労働関連法令とは、労働基準法や労働安全衛生法など、従業員に関する法令です。
例えば、労働基準法では、最低賃金や年次有給休暇などの労働条件が定められており、労働基準法違反の契約は無効となることもあります。
また、労働安全衛生法は、労働者の健康や安全を守るための規定を定めた法律です。有害物質の管理、職業病の予防、安全教育の実施などが定められています。
労働安全衛生法に反すると、労働基準監督署から業務停止命令を受けたり)、罰則を受けること(労働安全衛生法20条~25条、119条等)もあります。
他にも、労働関連法の不遵守により、労働者とのトラブルが生じてしまうと、業界内部で話題になってしまい、企業そのもののイメージダウンにつながることになることが考えられます。
企業側の対応策としては、安全対策、法律遵守を徹底すること等が挙げられます。
これらの意識を向上させることで、労働災害そのものの防止だけでなく、企業のイメージアップにもつながることが期待できるといえるでしょう。
(2)働き方改革関連法
働き方改革関連法は、正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」と言い、2018年に成立した法律です。
ここでは、働き方を改善するさまざまなルールが定められています。
働き方改革関連法も、(1)にあげた労働関連法令の一つとも言えるのですが、いわゆる「トラック運送業界の2024年問題」といわれる諸問題が発生する法律となります。
「運送業界の2024年問題」は、トラックドライバーの時間外労働の上限が規制されることによって起こる問題です。
運送業界では、上で述べたような状況により、以前から、トラックドライバーの長時間労働が課題となっていました。
そこで、働き方改革関連法によって、2024年4月1日以降は 、時間外労働の上限時間が設けられたのです。
これにより、2024年4月以降は、トラックドライバーは年960時間以上の時間外労働ができなくなるのです(現在の上限は年間1176時間)。
さらに、時間外労働をしている際の割増賃金率も50%以上に引き上げられることとなります。
働き方改革関連法により、トラック運転手の長時間労働は減少すると予想されていますが、その反面、ドライバーの収入も減少することとなり、人手不足が進むとも考えられています。
具体的には、2024年問題に対して、何も対策を行わなかった場合、2024年には、14%以上の輸送能力不足に陥る可能性があるとされています。(「公益社団法人 全日本トラック協会 知っていますか?物流の2024問題」より)
同協会によると、かかる問題により、トラック事業者は”荷主や一般消費者のニーズに答えなくなり、今まで通りの輸送(例えば長距離輸送など)ができなくなる”こと、”今まで通りの輸送を継続するためにはさらにドライバーの増員が必要だが、人材が確保できない”などの問題をかかる可能性が高いとしています(同上より)。
そのため、物流業界全体で、「2024年問題」に向けて、課題の対応を行ったり、仕組みを改善したりする必要があると言われているのです。
(3)民法(契約法)
運送業者が注意を配るべき法務分野の3つ目としては、民法、特に契約法が挙げられます。
ここでは、運送業者と荷主の間で締結されることの多い、運送契約について、見てみましょう。
例えば、運送業者が契約で約束された貨物を指定の場所に届けることができなかった場合、契約の不履行であると相手から言われ、トラブルとなってしまうことがあります。
ここで、民法第415条などでは、債務不履行により生じた損害について損害賠償を求めることができることが規定されています。
積荷を届けることができなかったことが、運送会社のせいであるとされてしまった場合、運送会社は債務不履行の責任(ほとんどが金銭賠償)を負うこととなってしまうのです。
また、運送業者が貨物を配送中に損傷させたり紛失させたりしてしまった場合も同様の問題が生じえます。
民法は、どの業種であっても関わってくる法律分野であり、特に事業を行う経営者の方々にとっては、非常に重要なものとなります。
運送会社にとっても例外ではありません。
③運送業において生じやすい法的トラブル
それでは、運送業において特に生じやすい法的トラブルにはどのようなものがあるのでしょうか。こちらも、主なものを2つ程度上げていきたいと思います。
(1)労務トラブル
まず、第一に挙げられるのが、労務トラブルです。
労働法務分野と一言で言っても、その中身には様々なトラブルの種類があります。
例えば、
ⅰ長時間労働や残業代未払いなどに関するもの、
ⅱ雇用形態に関するもの、
ⅲ労働災害に関するもの、などです。
ⅰ長時間労働や残業代未払いなどに関するもの
労働時間や残業代未払いについては、従業員の雇用管理(労務管理)が適切に行われていないことによって生じるリスクが高いものだといえます。
すなわち、会社側の不備(労働契約書の作成や保管、勤怠管理など)があることによって起こりやすいものだといえるでしょう。
例えば、使用者である会社が、適切にスケジュール管理を行わないまま、労働者に対して過剰労働を強いてしまうことがあります。
これは、タスクの適正な配分、適切な休息時間の確保など、労働時間を管理するためのシステムを導入することなどで、一定程度防止することができます。
もっとも、勤怠管理システムをうまく活用できてない会社の中には、そもそもコンプライアンスに対する意識に問題がある企業さんも存在します。
例えば、そもそも労働契約書を作成していなかったり、雇用条件を労働者に教えていなかったりするようなところもないとは言い難い現状にあります。
こういった会社においては、そもそも労働法や労働基準法を遵守する体勢の準備や、風土改革から取り組み始める必要があると言えるでしょう。
ⅱ雇用形態に関するもの
ほかにも、人手不足を解消するために、派遣労働者や、非正規雇用を行う場合は、労働者感の契約がより複雑になりがちです。
すなわち、正社員以外の非正規雇用者の扱いについて、問題が生じることがあるのです。
非正規雇用の労働者特有の問題である、契約更新の手続きや、解雇に関する手続きなどに不備が生じていると、主に解雇時にトラブルに発展する場合があります。
ⅲ労働災害に関するもの
また、積荷作業を行ったり、長時間トラックを運送したりするという運送業務の性質上、労働者には、交通事故等の労働災害が発生することがあります。
そのため、事業者は、労働災害の予防や発生時の対応について適切な措置を講じる必要があるといえるでしょう。
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(2)働き方改革関連法
働き方改革関連法に関しては、今現在生じているトラブルとは言えませんが、近い将来運送会社にとって、生じやすくなるトラブルであると考えられます。
そのため、現在、運送業者にとって喫緊の課題となっているのは、上記で上げた「2024年問題」に向けての予防・対策ではないでしょうか。
今のうちから、十分な対策を取っておくことが、2024年の後のトラブルを防止することに繋がります。
(2)契約トラブル
上記でもあげましたが、企業にとって、ビジネス上締結する契約書というのは非常に重要な文書といえます。
上で例えを上げたのは、運送業者と顧客との間で成立する契約(運送契約)での運送契約でした。
運送契約で、よくあるトラブル事例としては、
・ドライバーが、指定の場所ではなく、異なる場所に配送してしまった
・ドライバーが荷物を破損してしまったうえ、顧客に連絡しなかった
・配送が遅延してしまった
等といったものです。
また、運送業者の契約の特徴は、積込や荷下ろしの日時・場所が変化するという点にあります。
特に、複数の商品を取り扱っている運送業者の場合(加工食品と生鮮食品など)は、積み込む内容に応じた対応が必要である点が特徴的であり、このような会社にとっては、契約に関するトラブルはより起こりやすいといえるでしょう。
このようなトラブルを避けるためには、適切な契約書を予め作っておくことが、効果的です。
詳しくお知りになりたい方は、「弁護士による契約書チェック」 のページをお読みください。
④運送業特有の法的問題に関して、弁護士ができること
それでは、運送業特有の法的問題に関して、弁護士ができることは、どのようなものがあるのでしょうか。
弊所は多数の沖縄県内の中小企業様との顧問契約を締結しております。このような経験を踏まえて、弁護士がどのようなサポートができるのか、解説していきたいと思います。
(1)労働者との法務トラブル全般を依頼できる
弊所は、中小企業事業者様との顧問契約を多数締結しておりますが、その中で、運送業者を含む企業様との労務相談では、様々な相談がなされることが一般的です。
例えば、
「従業員や元従業員から未払いの残業代を請求されてしまった」
「事業所内でパワハラがあり、従業員がうつ病になってしまった」
「期間限定で雇っていた人と契約を解除したら、違法な解雇だと言われてしまった」
という相談などです。
どれも労働者に関連して起こる”労務”トラブルなのですが、実は、これらは、すべて違う法律が関わってくる相談なのです。
弁護士は、労働法、労働者派遣法、下請法など、多岐にわたる知識を持っているため、様々な法律が関わる相談に対しても、臨機応変に労務相談に対応できるといえます。
労働トラブルに対する一番適切な解決策を提供することができるといえるのです。
弁護士は、トラブルが起こったあとの救済措置や法的なアドバイスを行うことができるのです。
特に、元従業員との紛争・訴訟への対応は、運送業者の本来的な業務ではない上、時間的・金銭的・精神的に負担がかかることが多い作業だと言えます。
弁護士は、このようなトラブルが生じた場合に、代理人(運送業者のかわりに相手と交渉などをする役割)となることにより、経営者の負担を減らすことができます。
(2)今後のトラブル防止対策の提案を依頼できる
弁護士は、紛争が起こったあとの解決に加えて、どのようにすれば今後のトラブルを防止できるのか、という点についてもアドバイスを提供することができます。
例えば、法的トラブルが起きてしまったということは、今まで会社内で使用していた雇用契約書の内容がおかしいものだったのかもしれませんし、労働時間の管理方法が間違っていたのかもしれません。
弁護士は、幅広い法的分野についての知識を有しているため、目の前のトラブル解決に加え、事業所が抱えている見えないリスク(潜在的リスク)を見つけだしてもらえるといえるでしょう。
特に、2024年問題に向けての体質改善、コンプライアンス意識の向上は、大きな課題となっています。
運送会社の実情を知っている弁護士に依頼することで、雇用契約書や就業規則・賃金規定を法的な観点から整備し、トラブルが起きないように、アドバイスを貰うことができます。
(3)取引先・顧問先とのトラブル対応
運送業者の実情に詳しい弁護士は、運輸・流通スキームについて深い知識を有しています。
そのため、取引先や顧客先と法的トラブルとなった際にも、交渉や訴訟のだいりにんとなることで、トラブル対応を依頼することができます。
これらのトラブル対応は、業界内部での会社の信頼度にも繋がるものであり、労務トラブルと同様、運送業者の本来的な業務ではない上、時間的・金銭的・精神的に負担がかかることが多い作業だと言えます。
弁護士は、このようなトラブルが生じた場合にも、会社の代理人となることにより、経営者の負担を減らすことができます。
(4)適切な契約書の作成によるトラブル予防
ビジネスにおいては、”取引基本契約書”、”運送契約書”、”秘密保持契約書”など、法的拘束力を持つ契約書を、取引先や顧客と締結するのが一般的です。
契約書は、取引や合意の内容を正確に記載し、当事者間の約束事を明確にする重要な文書です。
運送業界にとってもこれは例外ではありません。
上でも述べましたが、運送業者の契約の特徴として、
・積込や荷下ろしの日時・場所が変化するという点、
・複数の商品を取り扱っている運送業者の場合(加工食品と生鮮食品など)は、積み込む内容に応じた対応が必要である点、
・荷待ち時間の取り扱いが曖昧になっているものもある点
・付帯業務(荷物の仕分けやラベル貼りなど)によるトラブル発生がある点
が特徴的であるといえます。(「国土交通省 運送委託会社の方へのお知らせ」)
また、昨今の情勢による、原油価格の大きな変動も、運送会社に直結する問題です。
そのため、運送会社は、より慎重に、適切な契約書を締結する必要があるといえます。
例えば、運送契約書に加えて、臨機応変に対応できるよう覚書を締結することにより、原油価格や運送事情の変動に備えるなどの対策が考えられます。
このように、弁護士には、契約書締結に関するアドバイスを依頼できるでしょう。
⑤運送業者が顧問弁護士を活用するメリット
それでは、運送業者が顧問弁護士を活用するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
(1)社内の内情を知っている顧問弁護士に依頼することで、法的トラブルのスピーディな解決が期待できる。
法的トラブルは、相手方との交渉、調停、訴訟など、様々な形で起こり得ます。
このようなトラブルは突如生じることが多いのです。
そのため、トラブルが生じた後に、自分と合う弁護士と巡り合うところから始めてしまうと、さらなる時間的、経済的、精神的に負担がかかってしまいます。
普段から交流があり、社内の内情を知っている顧問弁護士に依頼することで、法的トラブルをスピーディかつ適切に解決し、企業の損失を抑えることが期待できるといえます。
(2)顧問弁護士に依頼することで、適切なコンプライアンス体制を整えることができる
上記④でもお伝えしましたが、会社の内情を知っている弁護士は、会社が気づいていない法的リスクに気づき、トラブル防止のためのアドバイスを行うことができます。
会社が気づいていないようなリスクのある体制があれば、社員研修・セミナーなどを行うことによって、適切なコンプライアンス体制を整えることができるのです。
こうして、法的リスクを抑えた会社経営を行うことで、法的トラブルが生じにくい組織を作ることができるのです。
一度トラブルが起こってしまうと、その解決には多大な時間・経済的負担が生じてしまいます。
適切なコンプライアンス体制を整えていくことは、運送業者の経営者にとって無駄なコスト・費用の削減に繋がるのです。
さらに、再発防止策や、適切な労務管理を行う会社であるとのブランディングに勤めれば、社内外での会社に対する信用があがり、従業員の定着や、新規顧客の獲得にも繋がります。
⑥当事務所の特徴
弊社は、沖縄県内にて、◯年間にわたり、企業法務をメインに弁護士業務を行っております。
また、県内外には、数十社に渡る顧問企業を有しております。
そのため、沖縄県内独特の企業の内情や、ビジネス慣行について深い知識を有している弁護士が複数名在籍しております。
弊所は、企業側の顧問契約について、常時ご依頼、ご相談を受け付けております。
企業法務に精通した弁護士が、トラブルの解決のために全力を尽くします。
もし、お悩みになられている経営者の方がいらっしゃれば、お気軽に相談にお越しください。
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Last Updated on 2024年4月9日 by roudou-okinawa
この記事の執筆者 弁護士法人ニライ総合法律事務所は、実績豊富な6名の弁護士で構成されています。このうち3名は東京で弁護士活動してきた経験を持ち、1名は国家公務員として全国で経験を積んできました。 当事務所の弁護士は、いずれも「依頼者の最大の利益を追求する」をモットーに行動いたします。 |