従業員を解雇する具体的な要件について弁護士が解説~普通解雇とは?~

従業員を解雇する具体的な要件について弁護士が解説~普通解雇とは?~

従業員を解雇する具体的な要件とは?

解雇は、従業員の同意なく使用者が当該従業員に対し一方的に従業員としての地位を失わせる行為です。解雇は、従業員に対し、生活基盤を失わせるという多大な不利益をもたらすものであることから、法律は、解雇に対して、いくつかの規制をおこなっています。これらの規制に反すると、解雇が無効となり、雇用契約が従来通り存続していたものとして取り扱われたり、当該解雇が不法行為となり会社に損害賠償責任が生じてしまうこともあります。

ここでは、解雇の要件について解説します。

大前提 下記要件に該当しないこと

 まず、当該従業員の解雇禁止期間、解雇禁止事由に当てはまらないことを確認する必要があります。解雇禁止期間には、以下のものがあります。

解雇禁止期間

  • 業務災害の療養休業期間及びその後30日(ただし、労働基準法81条によって打ち切り保証を支払う場合を除く。労働基準法第19条)
  • 産前産後休業期間およびその後の30日(労働基準法第19条)

  この期間の解雇は、たとえ他の解雇理由が備わっていたとしても、天災事変その他やむをえない事由のために事業の係属が不可能となったような場合を除き解雇は無効となります。また、「やむを得ない事由」の有無は経営者が自分で判断してよいものではなく、労働基準監督署長の認定が必要になります。

解雇禁止事由

 法律では、特定の理由による解雇を禁止しています

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労基法第3条)
  • 労働者が労働基準監督署に対して申告したことを理由とする解雇(労基法第104条)
  • 労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇(労組法第7条)
  • 女性であること、あるいは女性が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法第8条)
  • 育児休業の申出をしたこと、又は育児休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条)
  • 介護休業の申出をしたこと、又は介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第16条)

30日間の解雇予告あるいは解雇予告手当

 使用者は、当該従業員を解雇しようとするときは、少なくとも30日前に予告しなくてはなりません(労働基準法第20条)。予告を行わない場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。予告の日数が30日に満たない場合には、その不足日数分の平均賃金を、解雇予告手当として、支払う必要があります。例えば、解雇日の10日前に予告した場合は、20日×平均賃金を支払う必要があります。(労働基準法第20条)。

解雇の要件

 藤堂契約法では、客観的合理的な理由を書き社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権を濫用したものとして、無効であると定められています(労働契約法16条)

客観的合理的理由

客観的合理的理由は、対象従業員との労働契約を終了させなければいけないほどの能力不足、規律違反などの非違行為、あるいは経営上の必要性の存在です。就業規則のある会社の場合、就業規則において解雇事由を定める必要があります(労働基準法89条3項)ので、就業規則で定められた解雇事由にあてはまることが客観的合理的理由となります。就業規則に書いていない理由での解雇は無効になります。

社会通念上相当とは

当該従業員の行動が就業規則上の解雇事由にあてはまるとしても(客観的合理的理由)、解雇をもって臨むことが社会的に相当でない、過酷にすぎる、という場合には、社会通念上相当とはいえず、解雇が無効になります。具体的には、当該従業員の処分歴、反省の態度、過去の勤務態度、改善の見込み、会社の注意喚起の有無や頻度、解雇を回避すべく対応(配置転換や出向等)の有無、他の従業員との処分の均衡などが考慮されます。

たとえば、従業員が職務に必要な能力に達していない従業員を解雇しようとした場合、就業規則にある解雇事由に「能力不足」が記されていたとしても、それだけでは解雇はできません。当該従業員の能力不足が企業経営や業務運営に重大な支障をおよぼす程度の重大なものであるのか、当該従業員の能力不足によって会社に損失をもたらしたことはあるのか、会社側は指導したり研修をしたりするなど手だてをつくしたのか、手だてをつくした結果将来的に改善の見込みはあるのか、当該従業員の能力に応じた職種や部署への配置転換は検討したのか、などの要件をクリアする必要があります。

 ラジオ局のアナウンサーが2週間の間に2回寝過ごしによって早朝のニュースを放送できなかったことを理由に解雇された事案で、当該アナウンサーが懲戒処分歴もなく勤務態度も良好だったことや、2度目の事故の後に始末書を提出しその内容からも反省の態度がみられること、ラジオ局の方も早朝のニュース放送に万全を期す対策をしていなかったことから、当該解雇は「社会通念上肯認される程度の客観的妥当性を有しないものであって、苛酷にすぎ、解雇権を濫用したものである社会通念上相当性を欠く」として無効とした最高裁判例があります。(高知放送事件 最判昭和52年1月31日)

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解雇理由の提示

解雇理由証明書の交付義務

   労働者が解雇の理由について証明書を請求した場合には、会社はすぐに労働者に証明書を交付しなければなりません(労働基準法第22条)。

解雇理由証明書の記載事項

解雇理由書に記載すべき事項は、使用期間(在職期間)、業務の種類、業務における地位、賃金、退職事由、解雇理由(労働基準法第22条第1項)になりますが、このうち、従業員が証明を請求していない事項は記入してはなりません(労働基準法第22条第3項)そのため、従業員から解雇理由についての証明の交付を求められた場合は、労働基準法22条に定められた証明事項のうち、どの項目についての証明を希望するのかを、まず確認する必要があります。

 また、解雇の理由については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当する事実が存在することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければなりません(厚生労働省通達 平成15年10月22日基発第1022001号)。

 解雇理由書のひな型は、沖縄労働局のHPにも記載されていますので、一度、ご覧になってみてください。

解雇理由書の使途

  解雇理由書は、離職票と異なり、失業保険等の公的手続きに利用できるものではありません。それにもかかわらず、従業員が解雇理由書を求めるのは、解雇に納得していない場合、解雇無効を争えるかどうか、弁護士や労働組合に相談する場合などが考えられます。すなわち、後に、訴訟や労働審判などにおいて、従業員から裁判所に提出される可能性があると考えてよいでしょう。

(4)解雇理由書交付は慎重に

  後に、訴訟や労働審判において、使用者が証明書に記載された以外の解雇理由を追加主張することは許されません。そうなると、解雇理由証明書の意味がなくなるからです。

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解雇予告は慎重に、事前に弁護士にご相談ください

 解雇予告をする前に、当該従業員の行為が、就業規則の解雇事由にあたるかどうか、その従業員の普段の勤務態度や、注意に対する改善状況や、他の従業員に対する過去の処分の均衡と照らして解雇が酷すぎないか、確認することが必要です。迷ったら、解雇予告をする前に、ぜひ弁護士に御相談ください。

従業員を解雇し、解雇理由書の交付を求められて初めて就業規則の解雇事由にどこにもあてはまらないことに気づくケースや、当該従業員の行為が就業規則上の解雇事由に相当するにしても、当該従業員に対し指導や改善を促すことなく即解雇しており、裁判で争われた場合には「社会通念上相当性」が否定される可能性が高い、といったケースも残念ながら、法律相談の現場ではよく見受けられます。その段階になって、弁護士に法律相談にいらしても、できることは限られています。

裁判で解雇が無効になってしまうと、従業員に復職が認められます。そして、会社は解雇したときからさかのぼって当該従業員に賃金を払わなければならなくなります。従業員自身が復職を希望しない場合でも、解雇自体が不法行為になってしまうと、会社は従業員に対して損害賠償義務を負うことになります。裁判で解雇無効が認められると会社にとっては、大きな損害になります。

従業員に対し解雇を検討されている企業様におかれましては、解雇をする前、解雇予告をする前に、ぜひ、弁護士に御相談ください。

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Last Updated on 2024年3月5日 by roudou-okinawa

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